5月 私の最強庭道具

5月 私の最強庭道具

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あちこちで田植え作業が忙しい。カエルが軽快に音楽を奏でれば、アメンボウは水の舞台に小さな波紋をいくつも作り、それはさながら降り始めの雨のよう。ツバメが目の前を通り過ぎたかと思うと、今度は電線にちょこんととまって、ああでもない、こうでもないとひとり楽しそうにおしゃべりをし、先日まで我が家のフェンス越しの藤に夢中になっていたマルハナバチは、ようやく満開のブルーベリーの所へ通ってくれるようになった。

そろそろ良い頃かと麦わら帽子を取り出し、畑庭へと出た。

この暖かさでさらにこんもりと大きく伸びて来たソラマメの周辺は、ちょっとした雑草パラダイスになっている。覗き込むとテントウ虫やヤブキリの幼虫、小さなクモやアリ、出始めのアブラムシが蠢いていた。テントウ虫君たちがあっという間にアブラムシを食べつくしてくれればと思いを馳せながら、目についたアブラムシをこれ以上をふやすまいとプチプチ潰す。

この時期どんな道具よりも大活躍するのが、私の右手の親指と人差し指。雑草抜きに、虫の捕殺に、芽かきに、花がら摘みにと何だってできる。以前は私の指の皮膚も柔らかい時代があり、花苗の入ったケースを持つのも痛くて大変だった。すっかり分厚くなった指を眺め、人間の順応能力に感心する。

作業始めは大抵手袋をしているものの手の感覚がよく分からず、結局素手で作業をするはめになる。人間の指先の感覚は繊細かつ器用、これほど万能な道具はないと手袋を外す瞬間いつも思う。

しかし、数年に渡りこき使ったわたしの親指と人差し指は、細かい切れ込みとそこへしみ込んだ茶色の土で、この時期特にレディーの指先とは思えぬ姿となる。ネイルケアーなどは夢のまた夢。電車のつり革を持つ時や、名刺交換の際に少々の恥ずかしさはあるが、我が畑庭では向かう所敵なし。私の指にかかれば、どんな細かい作業でも虫でもなんでもござれ。もうしばらくすると現れる、大きな芋虫や毛虫たちに会うまでは。