5月 落ちない葉の正体

5月 落ちない葉の正体

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冬の間ずっと気になっていた葉っぱがある。完全に落葉しても、どんなに強い北風に吹かれようとも、その2枚の葉は落ちずにへばりついていたからだ。ずいぶん強靭な葉もあるものだと気にはなっていたものの、新緑も落ち着き、気持ちのよい木漏れ日を落とす頃になると、そのしぶとい茶色の存在などすっかり忘れていた。

ある天気の良い午後、ふと覗き込んだその木の中に見覚えのある茶色の葉を発見。久しぶりにその落ちない葉っぱの存在を思い出した。

しかし、よく見ると昨年の冬と少々様子が違うようだ。どんな過酷な状況下にあっても離れなかったその2枚の葉っぱは、少しほどけて内側の白い繭のような塊が現れていた。なるほど何かが卵を産んだ後、葉っぱで隠して木につけておいたのだと、数ヶ月ぶりにその謎が判明した。しかし、それの正体を知りたいという好奇心と確認したい衝動が抑えられなくなった。害虫だったら駆除しなければなどと言い訳しながらその葉をもぎ取り、繭の塊をそっと開いてみた。うっすら赤いつぶつぶが見え、これはすでに何かが巣立ってしまった後のカスなのかと思った瞬間、それらがもしゃもしゃ蠢いている事に気付いた。目を凝らして良く見ると1ミリにも満たないクモの子どもたちが開いた繭の隙間から小さな手足をばたつかせていた。蝶か蛾などの幼虫を想像していた私は随分違うその結果にすごく驚いたと同時に、彼らは害虫を退治してくれる益虫である事も思い出した。さらには、この小さな命を守ろうと必死に木から離れないようにと縛り付けた母グモの事を思ったら、急に申し訳なくなった。もしかしたら外の世界に出るにはまだ少し早すぎたかもしれない。急いでまた木の中の枝になんとか結びつけ、その後の彼らの無事を祈りつつ、繭をむりやりこじ開けた自分を責めた。ああクモさんよ、どうか無事巣立ってそして存分に益虫として働いておくれ。そこはあくまでも自分本位なのである。