4月 衣香りに満つる

4月 衣香りに満つる

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終わりかけの菜の花がまだまだむせぶように香り、遠くを黄色の花畑にしている。その合間をぬうようにモンシロチョウが楽しそうに飛ぶのを見ていると微笑ましくもある反面、葉を食べつくす彼らの幼虫が頭をよぎり、少々複雑な気持ちになった。

先日お茶のレッスンに行った際、掛け軸にこのような言葉があった。「弄花香満衣(花を弄ずれば香り衣に満つる)」。茶事の掛け軸における禅語についてはさらに奥深い意味があるようだが、単純に花と戯れてその香りが洋服についてしまった事を思い浮かべ、とてもロマンチッックな気持ちになった。後日衣満つる事を夢見つつ山に散策に出かけると、薄紫のタチツボスミレに混じって、匂いすみれがあちこちで咲いていた。待ち遠しかった匂いすみれの登場に、心が高鳴った。

昨年の春はアレルギー症状により鼻づまりがひどかった為、その素敵な香りを何度嗅いでも分からず悔しい思いをした。さらには「美人の香り」という友人達の言葉にどんな美人のお姉さんの香りがするのだと、それを追いかける若い青年のように必死になってみたものの、結局その鼻づまりの前に私の野望は達成されなかったからだ。今年は春先にはきちんと薬も貰い準備は万全のはずだったが、何故だかその香りが分からない。地面に這いつくばるようにして、その花が鼻の穴に吸い込まれてしまうのではないかと思うくらい至近距離で嗅いでも分からない。嗅ぎたい香りは一向に分からないでいるのに、それに代わって嗅ぎたくもないツンとした鼻を突くようなサカキの花の香りが辺り一面に充満し、鼻から息を吸い込みすぎたせいか、少しくらくらしてきた。匂いすみれが「美人のお姉さん」だとするとサカキは「思春期の青年」とでも言おうか。その日は意に反して思春期の青年の香りに衣満ちて家路に着く事となった。

まだしばらく咲いているであろう匂いすみれに衣満つる事を夢見つつ、今年こそはリベンジを誓うのであった。