5月 照葉樹の芽吹く頃
5月 照葉樹の芽吹く頃
まだ寒い春先からがんばっていたパンジーやビオラたちがその役目を終えつつある頃、私の住む房総の山々では落ち着き始めた新緑に替わって照葉樹の芽吹きの季節となる。あちこちに現れる目の冷めるような黄緑色や銀白色の新芽を見る頃、きまってホームセンターへ苗を買いに出かける。この時期野菜やハーブ、季節の草花がところ狭しと並べられ、家族連れや老夫婦などたくさんの園芸好きや菜園狂が集結する。季節の草花売り場では、女性客の「この色素敵」「かわいい」という声が飛び交い、ハーブ売り場へ行くとご主人が、「そんなものどこへ植えるんだ」と文句を言う隣で、その助言にはいっさい耳をかさないご婦人が、「これは料理に使うの!」といくつもカゴへ入れている。果樹売り場では、親に連れて来られた子どもたちが、蝶を見つけて興奮し、野菜苗売り場では、菜園を持っているであろう初老の男性がかなり真剣にそして寡黙に苗とにらめっこをし、そして店員を捕まえては質問を繰り返す奥様で活気づいている。それにくらべて奥の樹木や山野草などの売り場では、比較的のんびりとすいていて根っからの庭好きらしい男性が腕を組み、時間をかけながら良い樹木選びに余念がない。私はと言えば、野菜売場で新しい品種とにらめっこし、草花売場で咲き乱れる花々の空想に浸り、その後山野草売場で癒され、流れっぱなしの野菜作りのDVDに釘付けになり、まだまだ大丈夫と種売場で手に取っては戻しを繰り返し、長居するつもりもなかった当初の予定はどこへやら、時計を見て慌てて会計の長い列に並ぶ客の一人である。
その後自宅で無事植え終えた野菜や草花苗を眺め、播種した種にはいつ芽吹くのかと問いかけながら、まだまだ茶色く広がる土の景色に、野菜や花達であふれかえる数ヶ月後を思い、何とも言えない充足感と達成感に包まれる。そして、今年も適期に間に合ったという満足感と安心感で自然と笑みがこぼれるのである。