4月 桜の散る頃に

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 先月から鳴き始めたウグイスの鳴き声も、だいぶ板についてきた。クロモジが目の覚めるような緑みがかった黄色の花を咲かせ、キブシの淡い黄色の花穂が、いよいよこれから始まる芽吹きの季節を予感させてくれる。

 房総へ移り住んで早4回目の春を迎えた。小さいながら念願の庭と畑を持つ事は、純粋に植物を愛で楽しむのはもちろんの事、自由に失敗が出来るという最大のメリットがここにある。徐々に生長しつつあるリーフレタスの苗に水をやり、庭を歩きながらふと

公園の桜を見上げた。

 以前造園会社に勤務している時によく聞かれた質問の一つに、植栽後の植物への給水方法があった。「何リットル?そして何日間隔であげますか?」的確な数字を求められる中、私の答えは「たっぷりとそして土が乾いたら」と言う、とても大雑把な返答であった。この時期と量の見極めは植物を育てている人にとっては、状況を見て判断している基本中の基本の事項であるが、これが未経験者にとっては非常に難しい問題となる。これらの事項を把握出来ずに多くの植物が息絶え、そして植物を育てる事が下手というレッテルを貼る事になるのだ。ともあれ当時、私の一言によって枯れた場合のクレームを考えるとなかなか断言出来ず、またこれが環境、気候など、様々な場所に対応できる唯一の回答だとも確信していた。

ある時、農家出身の先輩にインゲンの種まき時期を聞いた所、「桜の散る頃」という答えが返ってきた。その返答は私にとって少し驚きであった。非常に分かりやすく、そして程よく曖昧だったからだ。なるほど、時期は周りの植物が自然と教えてくれていた。先月から田や畦に咲き始めたタネツケバナも、種モミを水につける時期に咲く事からその名があるように、実は身近な自然がたくさんの情報を発信してくれている。桜の散る頃になるといつも決まってこれを思い出し、庭を歩きながら今年はどこにインゲンを播こうかと思案する。

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五嶋直美(ごとうなおみ)

1976年生まれ。武蔵野美術大学卒業後、造園会社に勤務し、多くの庭づくりに携わる。現在房総の片田舎を拠点にイラストレーター、ガーデンデザイナーとして活動。